昔日の朝抹茶:其の二


移ろう季節、心を見つめながら。(~2020.4)


2020年4月25日

【風薫る】

早々に朝の一仕事を終えて、

今朝はご褒美のような朝抹茶。

 

「どれにしよう?」と、選ぶのも楽しい、ひとくちサイズの小さな和菓子は、島根の三英堂さんからのお取り寄せ「端午のてまり」。 

左上から時計回りに

・菖蒲てまり

・柏てまり

・牡丹てまり

・鯉てまり

・兜てまり

 

菓銘もすっかり初夏のものに。

今朝はふたつ頂きましたが、ご家族で楽しまれても良さそうですね。

 

それにしても入ってくる風の心地良いこと。

光の澄んでいること。

風薫る季節。

吹き抜ける風が伝える、その到来。



2020年4月11日

週末の朝抹茶。

お供に筍と早蕨のお干菓子を。

生徒さん達が喜ぶかなとご用意していたお干菓子。

日持ちがすると言っても、そろそろ私が頂かないといけない頃になりました。

お教室は暫くお休み。

 

日本にいる生徒さん。

海外にいる生徒さん。

今朝はお茶を点てながら、殊に皆のことを想います。

皆、健やかでありますように。

皆、がんばろうね。



2020年4月5日

【清浄明潔】

窓を開け、埃を払って浄てからの一服、朝抹茶。

清澄な風、鳥のさえずり、明るい陽光。

お茶は香り高く、円やかにして、器から伝わる温もりは柔らかい。

 

二十四節気「清明」。

美しい季節。

 

どんな心持ちで過ごしても、時は同じように流れる。

同じことなら、出来るだけ穏やかに和やかに、そして凛と過ごしたい。



2020年4月1日

【卯月朔日】

卯月朔日の朝抹茶。

今朝は少し早起きをして、小雨の降る中、地元の大宮八幡宮へお参りに。境内の桜も雨衣を纏ってしっとりと。

帰宅してからは、さらさらと一服。

お供は緑寿庵清水さんの「あまおう」の金平糖。

丁寧に始める一日。



2020年3月29日

【春の雪 花鎮め】

桜の花の散る頃に疫病が流行る。

そう信じられ、古来より花の散る頃には、疫神鎮めの神事 鎮花祭が執り行われてきました。

大神神社、狭井神社。今宮神社の「やすらい祭り」。 花を散らす風にのって疫病が運ばれると思われていたのでしょうか。

 

今年の東京の桜はいつになく早く咲き、そして散り始めようとしています。

花見も自粛で見る人少なく散る花に、まるで寄り添い抱(いだ)くように降る、春の雪。

 

「のどかなる春のまつりの花しづめ 風をさまれとなほ祈るらし」

二条良基

 

「三輪の里狭井のわたりに今日もかも 花鎮めすと祭りてあらむ」

美智子上皇后

 

やすらえ花よ。

やすらえ花よ。

雪を眺め心に思う。



2019年12月25日

ノエルの朝抹茶。

団らんの大切さを想う朝。



2019年12月17日

冬の雨の日の朝抹茶。

同じ時間にお茶を点ててもこの時期は仄暗い。

それも季節なのだと思う。

師走は忙しないけれど、お茶を点てる時間はゆったりと流れる。

丁寧な所作は、まろやかな心を生む。

 

お供は「冬枯れ」とやら製。

外側には何の飾り気もないけれど、切ってみると中には緑の餡。内側に来たるべき季節の命をそっと育む樹々を見る思い。

茶碗は寒くなってきたので、筒茶碗で。



2019年11月30日

【朔風払葉】

「きたかぜ このはをはらう」

冷たい時雨は、木の葉を鮮やかに染め、時雨と木枯たちが、色付いた樹々の葉を散らして行く。

冬の到来を知らせる木枯。

今朝はその木枯の恩恵で朝抹茶。

冷たい風で甘みを増す干し柿。その中に白餡をたっぷり詰めた源吉兆庵さんの「粋甘粛」。

自然と人の知恵の贈り物。



2019年11月22日

二十四節気「小雪」の朝。

花見さんの「龍の玉」で朝抹茶。

「龍の玉」は、ジャノヒゲという植物の青紫色の実こと。冬に実るそうです。

「小雪」なので、お懐紙は雪輪文様のあるものを。

 

昨日の畳のお稽古のお軸は「三夕」。

秋の夕暮れを詠んだ三首の歌。 「さびしさはその色としもなかりけり 真木立つ山の秋の夕暮れ」寂蓮 「心なき身にもあはれ知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ」西行 「見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ」藤原定家

 

晩秋から初冬への移ろいは、ひっそりと。



2019年11月12日

先日受けた畳のお稽古を思い出しながらの朝抹茶。

教場に伺うと風炉から炉に変わっていました。炉の中の釜の文様は、一面の紅葉、そして鹿の姿。ある一首の和歌が浮かび、晩秋の風情を感じていたら、先生の奥様の声。

「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の…」

「声きく時ぞ秋は悲しき」

 

思っていた和歌が聞こえてきたのが嬉しくで、下の句は私も一緒に続けると、笑顔で頷いて頂いた。

お軸には、流祖の茶の心得。茶人のお正月だから初心ということなのだろう、と思い拝見。花は白い椿の蕾。初々しい初嵐。

 

いつも、溢れる程たくさんの事を教えて頂く、温かな心を頂く。帰り道に見上げた月は、澄み渡り美しかった。

 

干菓子に紅葉を並べてはお稽古を思い出す、朝抹茶。



2019年11月4日

少し冷え込む頃の朝抹茶。火と湯気の温もりを感じながら。

お菓子は「推古」とらや製。



2019年10月16日

来週には二十四節気「霜降」。

文字通り霜の降りる頃、そして山の紅葉の色付く頃。

お茶を点てようと茶碗を温める時に掌に伝わるぬくもりもゆっくりと。寒さはやがて山を錦に染める。凛とした美しい季節の始まり。

お菓子は、「紅葉」塩野製と、頂き物の「みずのいろ」御菓子つちや製。



2019年10月1日

【神無月朔日】

神無月初めの朝抹茶。

今朝はいつもと違うお点前を割り稽古。

 

違うけど、同じ。

見えるところは違っても、根っこは同じ。

表層に拘るのは瑣末なこと。

ふとそんなことを感じた。



2019年9月16日

【良夜】

一昨日の中秋の名月。

昨日の満月。

二夜続けての美しい月を思い出しての朝抹茶。

 

お供は「良夜」塩野製。

良夜は、月の明るく美しい夜のこと。ここにも可愛らしい兎の姿がありました。



2019年9月13日

月の姿が楽しみな頃の朝抹茶。

お供の可愛らしい月兎に、思い出す月の兎の物語。

「私には差し上げられるものがありません」。

そう言って、我が身を糧として火に投じた哀れな兎。

お月見の頃、可愛らしい兎に出会うと思い出してしまうのです。

 

「うさぎ、うさぎ、何見て跳ねる…」

 

我が家のお供えは、和三盆製の小さなお月見団子。ささやかなお支度。

 



2019年9月5日

朝抹茶。お供に「石竹(撫子)」のお干菓子を並べていたら、過日、万葉集を携えて巡った飛鳥の地、そこで目にした光景を思い出した。

 

繁みにそっと咲く姫百合の可憐さ。

微笑むように群れ咲いていた撫子の花。 

「撫子が花見るごとに少女(をとめ)らが 笑まひのにほひ思ほゆるかも」

 

歌の生まれた地を訪ねると、何故その歌が生まれたのかよく分かる。

 

今朝のお茶は白磁で。

夏の熱が去り、葉は色付き

やがてはらはらと舞い散ってゆく。

白秋ー。

哀を含んだ静かな季節。

間も無く、一番好きな季節がやってくる。



2019年9月2日

さらりとお湯に茶筅を浸す。

青い竹の香りがたつ。昨日は無かった香り。一昨日はあっただろうか。あっても感じなかっただけだろうか?

 

お点前をしていると、そこには鏡のように自分の心が映る。微かな音、香り、色に包まれて、心を整えるひと時。



2019年8月31日

朝の光は秋のもの。

けれど、遠く蝉の声。

去り行く季節の名残のような。

 

今朝は花七宝の中次で。

あることの記念に最近七宝紋を集めています。

 

仏教では七宝は「金、銀、瑠璃、玻璃、シャコ、珊瑚、瑪瑙」の七種の宝のことだそうです



2019年8月23日

二十四節気「処暑」。

暑さも収まる頃なので、暖かい一服を。

お供は「岸辺の花」亀屋伊織製。 

岸辺に咲く撫子の花。



2019年8月12日

目覚めると蝉の声。

一日の始まりにわくわくするのは、子供の頃の夏休みを夏の朝が思い出させるからでしょうか。

 

立秋を迎えて夏と秋の行き交う頃。

今朝は初秋を思わせる絵付きの平茶碗に水点てで一服。お菓子は朝顔と団扇を。 

 

「手もたゆくならす扇のおきどころ 忘るばかりに秋風ぞ吹く 」新古今集和歌集 相模

 

間も無く秋風のそよぐ頃。



2019年8月3日

葉月、明るい夏の朝。

暑くなりそうと用意をして点てるお茶。

さらさらと茶筅の音。

水の音。

 

ふと気がつけば

光の彩度は落ちて

落とす影も心持ち長く。

盛りの中に現れる次の季節。

来週には早くも立秋。 



2019年7月23日

「ひと段落したら、ゆっくりとご自身のためにお茶を楽しんでください」

 

離れた処でおひとりで努力されていらっしゃる生徒さんに、そうメールをして、私自身もと朝お茶を点てました。

 

お茶碗は私の先生から頂いたもの。

お懐紙は生徒さんから。

(三枚目の写真の通りこの方も素敵な方です) 

 

繋がり伝える。

 

見守って頂いていることに、支えられていることに感謝する朝。



2019年7月14日

なつかしいお店のお干菓子と柚餅子で朝抹茶。昨日のお祝い事の余韻。

広がる裾野。

しみじみと嬉しい朝抹茶。 



2019年7月7日

七夕の朝抹茶。 

「我がためと織女(たなばたつめ)のそのやどに 織る白栲は織りてけむかも」万葉集

 

神衣織る乙女の機音。滝の音。

棚機津女と星の物語、乞巧奠。

やがて習合して七夕に。

 

催涙雨になりそうな雨に、ふと、七夕には禊の意味もあったと思い出す。

 

お菓子は可愛らしく「星まつり」菓匠菊屋製。雨が上がり二星が逢えますように。 



2019年7月1日

文月朔日。星の月の始まり。

朝抹茶のお供は、仙太郎さんの「二ツ星」。

七夕のお菓子は天の川に隔てられた意匠のものが多いけれど、こちらは笹舟に一緒に乗っているのがとても好きで、毎年見かけるとつい買ってしまいます。

 

「笹の葉 さらさら 軒端にゆれる…」

もうすぐ七夕。星合の日。

 



2019年6月14日

先日頂いた萩焼のお茶碗で朝抹茶。

「押入れに眠っていたので、良かったら使ってください」と萩出身の方がお持ちくださいました。

ふっくらと優しい肌触り。

七化けを楽しめるように大切に使わせて頂きます。

 

お菓子は先日の旅の思い出。

吉野の本葛を使った大谷醍予堂さんの葛落雁。

和三盆とはまた違う口溶けが楽しい。



2019年6月8日

特別な処へ出掛ける朝。

早起きをして濃茶を練りました。

 

馥郁たる香りとやがて現れる艶やかな緑。

それは、雨に濡れた樹々の色のような美しさ。



2019年6月1日

水無月朔日。

水の月の始まり。

そして、今日は氷の節句。

氷室を開いた氷の朔日。

 

宮中では、旧暦のこの日に氷室から取り寄せた氷を頂いて暑気を払う習慣がありました。

けれど、庶民はなかなか氷を手にすることが出来ません。そこで、生まれたのが氷をかたどったお菓子「水無月」。 今朝は、水無月の代わりにに五郎丸屋さんの「薄氷」を頂きました。



2019年5月25日

空に白く有明の月。

欠けゆく月は静の頃。

 

暑くなりそうなので、仕舞い込んでいた平茶碗取り出しての一服。涼しげとお懐紙は透かしのある五島美術館のものを。

 

慌ただしかった一週間。

繋がり続ける思考。

けれど、お茶を点てる時は思考を止める。無心になる。

馥郁たる香りを愉んだ後は、真っさらで、全ては新たに始まる、そんな気がしている。



2019年5月13日

曇り空の朝。

薄暗い光もお茶を点てるようになって好ましく思えるようになった。晴れの日は外へ、そうでない日は内へ心は向かう。

陰陽があるから物事は巡る。

 

お菓子は週末のお教室でお出しした「あやめ」塩野製と「柚餅」鶴屋吉信製。

 

盛りと咲く花から余所へ目を向けると、そこにはそっと次の季節の支度が始まっている。昨日目にしたのは花電車井の頭線沿いの紫陽花の蕾たち。



2019年5月2日

新しい御世の始まり。

お供は鳳凰のお懐紙に令月にちなんで梅の花を。 

「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」

 

令和は文化の香り立つ麗しい時代。