昔日の朝抹茶:其の三


2021年3月29日
【桜、はらはら】
昨夜の雨に桜を思いながらの朝抹茶。
昨日はオンラインでの和歌鑑賞の講座でした。
テーマは「桜」。
咲き初めから散るまでの桜の和歌を様々に皆さまと楽しみました。
(夜は海外の生徒さんもご参加くださいました)
桜の花を目にしたら浮かぶ一首。
そんな歌と出会えた方もいたようです。
思い出の桜、心に残っている桜。
そんなお話しを皆さまからも伺い
やはり桜は特別な花、そう改めて感じました。
「咲けば散る夜のまの花の夢のうちに やがてまぎれぬ嶺の白雲」正徹


2021年2月3日
【春立つ日】
二十四節気「立春」
二十四節気は立春から始まる。
新しい年の始まりを言祝ぐ。


2021年2月2日
【追儺】
ニ月ニ日 節分。
今朝は茶道ではなく、喫茶のお茶。
福豆で温かいお茶を頂く。
春慶塗のお盆の中には、豆政さんの福豆に鬼の面。
お多福は鶴屋吉信さんの薯蕷饅頭「追儺(お多福)」。
五色の土牛童子、鬼やらい。
「鬼は外、福は内」
「鬼(おに)」はもともと「おん」で「陰」。
立春の前に、陰の気を祓い、春を呼び込む。
「鬼は外、福は内」
春よ来い来い。
春よ来い。


2021年1月28日
【臥牛】
頂きものの末富さんの「冨久袋」で朝抹茶。
うすやきの焼印もおめでたく「丑」「福」「壽」などの文字、そして今年の干支の牛の絵。
その中に見つけたのは、菅公に縁の「臥牛」と「鳥居」。
部屋の梅の蕾が開く度に香りが漂う。
お茶を頂いた後は、最近、ところどころうろ覚えになってきた百人一首の読み返し。天神さまにあやかった後は、はかどるようです。


2021年1月7日
【若菜摘み、人日の節句】
「国栖らが春菜摘むらむ司馬の野の しばしば君を思ふこのころ」万葉集 巻十 919
1月7日、人日の節句。
寒中、雪の間から芽吹く若菜の力を頂いて邪気を払う。(七草粥)
もう一首。
「君がため春の野に出でて若菜つむ 我が衣手に雪はふりつつ」光孝天皇 古今和歌集 21
大切な人のために。
和歌から伝わる柔らかな想い。
その想いは、今も昔も変わらない。
今朝はいつもと違うお点前で一服。
お菓子は若菜の色のような鶯餅を。
蕾からゆっくりと開いてきた椿は、常満寺。ほのぼのと春の色。


2021年1月1日

 

【新春】

「あたらしき年の始にかくしこそ 千歳をかねてたのしきをつめ」

古今和歌集 巻第二十 1069

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

一年の始まり。清々しく長閑な朝。

いつもより、ゆったりとお茶を楽しむことから、今年を始めました。



2020年12月21日

 

【冬至】

「一陽来復」「陰極まって陽生ず」。

一番夜の長い日、冬至。

この日を境に運気は上昇すると言われています。

少し前から、我が家でも、柚子と小豆をお供えし、柚子の放つ瑞々しい香気を生徒さんたちと楽しんでおりました。

花は南天が手に入らず、ヒぺリカムを。和名は姫金糸梅と言うのだそうです。和花ではないけれど、調べてみた花言葉「悲しみは続かない」が陰陽逆転を思わせましたので、冬至の飾りに。

寒さはこれからが本番ですが、徐々に長くなる陽に希望を見出したいと思います。



2020年12月1日

 

【師走朔日】

早いものでもう師走。

忙しくなりそうな月の始まりは敢えてゆったりと。今朝は、お茶を点てて、先日頂戴した文香の香りを楽しみ、書を開いてみました。

文香「唐紅」は、伽羅、丁字、麝香を調合し、鮮やかかつ雅やか、お祝いに頂いた「聴雪」は、名前の通り静かに香り、動の静の対比が見事なものでした。

「唐紅」は「ちはやふる神代も聞かず…」の在原業平の和歌に因んでいるので、文香の表には紅葉の絵を、裏には源氏香の図のうち「紅葉賀」をと、調合も仕立ても趣向を凝らしたものでした。有り難いです。

書は、定家様に親しもうと求めた「伊達本 古今和歌集 藤原定家筆」を。頁を捲って前の持ち主の勉強の跡を見つけて、少し嬉しくなりました。



2020年11月27日

 

【初冬の朝】

冷えた指先に伝わる温もりの嬉しい朝。

「薄氷」という銘のお菓子で一服頂きました

子どもの頃、寒くなり始めた朝に、薄く氷が張っているのを見つけると、宝物に出会ったような気がしていました。

薄氷の美しさは儚く消える繊細なもの。

手の中に留めておけぬはずのものは、時折、心の奥から浮かび上がり郷愁を誘うようです。 



2020年11月4日

【亥の日、亥の子の祝い】

亥の月、最初の亥の日、亥の刻に「亥の子餅」を頂いて無病息災や子孫繁栄を願う亥の子の祝い。

亥の月は旧暦の10月、亥の月最初の亥の日は毎年変わりますが今年は今日11/4、亥の刻は21~23時。

 

十二支の亥は陰陽五行では「水」の気を持ち火に強いため、この日から火を使い始めると火難を逃れるとされ、囲炉裏やこたつに火を入れ始めます。

茶道では炉開きの日。

新茶の壺の口を切って使い始める日。

今朝は亥の子餅と、口切りとはいきませんが昨日届いた新しい抹茶を開けて一服頂きました。

 



2020年111

【霜ばしら】

霜月朔日の朝。

茶碗を温めようとお湯を落とすと

ふわりと立つ湯気。

掌に乗せゆっくりと回す。

温もりが掌に伝わってくるのが心持ち遅くなる頃。

冬の始まり。

 

お菓子は「霜ばしら」九重本舗玉澤製。

さくさくと、霜ばしらを踏みしめるような食感のとても繊細な晒し飴。

毎年、二十四節気「霜降」の頃からお出ししていますが、またこの季節が参りました。



2020年1029

【十三夜】

良く晴れた空に、今宵の月を思いながら頂く一服。

お月見といえば、先ず思い浮かぶのは十五夜ですが、「後の月」といわれる十三夜もまた名月といわれます。

十三夜は満月の少し手前。

その少し欠けた姿を、床しく美しいものとして愛でる。不完全、不均等なものの中に美を見る日本人らしい感性。不足の美。

私にとっては、教室名の「風月」を十三夜を眺めながら決めたことから、やはり大切な特別な月となっています。

 

十三夜は別名「栗名月」といわれるので、

お供は栗のお菓子、たねやさんの「栗月下」を。まるで栗そのものを頂いているような味わいがとても好みで、毎年買い求めるお菓子のひとつです。

 

「十三夜に曇り無し」。

今宵は清かな月の姿に出会えそうです。



2020年101

【中秋の名月】

神無月朔日。中秋の名月。

清風明月。

今宵の美しい月を楽しみに頂く一服。

お供は「すすき野」鶴屋八幡製。

 

今月は十五夜と十三夜があるので、室礼もお月見に。すすきは水が上がりにくいので、湯揚げすると良いそうです。



2020年918

【秋風】

「秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」藤原敏行 古今和歌集 169

 

空高く強い風の吹く朝に、思い出した一首。

今朝は「青柿」のお菓子でお茶を頂きました。

さやかには見えなくとも、枝葉の陰にはそっと秋の実り。

 

豊穣の秋も間も無く。 



2020年99

【隠逸の花】

九月九日、重陽の節句。

別名の菊の節句。

高貴に清雅に香る菊は

不老長寿の薬ともいわれる花。

お能の「菊慈童」は、罪によって流された慈童が菊の葉より滴る水を口にして七百年の時を生きる物語。

 

重陽の節句では長寿を願い菊酒を頂きますが今朝は菊酒の代わりに菊水とお茶を頂きました。

 


隠逸の花は菊の花のこと。

「風露新香隠逸花」

風露(ふうろ)新たに香る隠逸(いんいつ)の花。

 

お稽古で初めて目にした時に感動を覚えたお軸。

その同じお軸が、先日も掛けられているのを嬉しく懐かしく拝見していたところ、お稽古の終わりにお師匠さまからお話を頂き、来月、茶名拝受となりました。

 

何気なく目にしてきた紫陽花や菊などの花たち。

その美しさを改めて感じるこの頃です。 



2020年91

【長月】

長月朔日。

新しい月の始まり。

重陽の節句も近いので、

高橋敬典さんな燗鍋を使い、

菊の花びらを浮かべて菊酒風に飾ってみました。

お菓子は鈴懸さんの「鈴乃最中」、そして先日の余韻のお菓子。

 

静かに時を振り返るひと時。 



2020年823

【処暑】

二十四節気「処暑」。

暑さの和らぐ頃。

「夏と秋と行きかふ空の通ひ路は かたへ涼しき 風やふくらむ」

凡河内躬恒 古今和歌集168

 

歌の詞書は「みなづきのつごもりの日よめる」…つまり旧暦の水無月の晦(末日)、夏の終わりに詠まれた歌。

 

日が暮れると聞こえてくる秋の虫の声。

蝉の声、秋虫の声、行き交うように移ろう季節。

お菓子は秋の七草「萩、尾花(すすき)、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗」から、星の形にも似た桔梗の花を。



2020年87

【立秋】

「かき分けて折れば露こそこぼれけれ 淺茅にまじる撫子の花」西行

 

朝そよぐ風は心持ち涼しく。

光は薄衣を通したように柔らかく。

立秋の朝。

今朝は秋の七草のひとつ「撫子」を。



2020年82

梅雨が明けて

ようやく聞こえてくる蝉の声。

やっと始まる短い夏は

既に秋の気配も含んでいるような。

 

早起きのご褒美。

蝉時雨の中、

今朝は朝顔の花を頂く。



2020年728

さらさらさら。

お茶を点てると、心が落ち着く。

余分な感情は消えて、一度真っさらになる。

ささやかな音や香りに気づき、

そこに季節の声を聞くことがある

 

お供は頂きものの「高橋の酒まんじゅう」。

優しい甘みにほっと和み、

円(まる)い心で一日を始める。



2020年724

【夏衣】

「夏まけて咲きたるはねずひさかたの 雨うち降らば移ろひなむか」

万葉集 大伴家持

 

まるで、まだ水無月のような空気感。

そろそろ夏空が恋しいと、

今朝は「夏衣」鶴屋吉信製で。 



2020年77

【星合の日に】

「天の川瀬ごとに幣を奉る 心は君を幸く来ませと」万葉集巻十 二◯六九

 

七夕。

今朝は、想う人の無事を祈り川瀬ごとに幣を手向ける歌を。

二星のためだけではなく、

大雨の被害がこれ以上広がらないことも祈って。 

 



2020年6月30

【水無月末日】

水の月 末日の朝抹茶。

夏越の祓えなので「水無月」を頂く。(お菓子の水無月は、氷室開きの氷に寄せたお菓子でしたね)

 

明日から文月、そして七夕を迎える。

私は星達の物語より、水辺で神衣を織る乙女、棚機津女を思う。

聞こえて来る滝の音。

降りてくる水の神。

水無月から水は繋がっている。 

 



2020年6月23

【平茶碗】

暑くなりそうな日には平茶碗で点茶。

目から涼を頂く。

本物そっくりの枇杷は空羽さんの上生菓子。

餡も枇杷のフルーツ餡で口福。

 

 



2020年6月16

【五月晴れ】

梅雨の合間の朝の光。

芒種の頃、田も青く染まっていく。

 

「五月雨の晴れ間にいでて眺むれば 青田すずしく風わたるなり」良寛

 

今朝はお茶の緑に青田を重ねて。

お菓子は先日のお稽古で頂いたもの。

 

 



2020年6月11

【紫の玉】

よく晴れた朝に雨を待つ花。

紫陽花には雨がよく似合うと思う。

東京もそろそろ梅雨入り。

間も無くしっとりとした花の風情を楽しめる頃。

 

 



2020年6月4日

【水無月】

月もあらたまって水無月、水の月。

そして朔日は氷室開きの氷の節句。

それに因んでお菓子には薄氷(うすらひ)をとも思いましたが、少し趣向を変えて今日は巣蜜を。

 

今のような菓子が現れる以前は、柿や栗などの果物や木の実が菓子でした。

巣蜜もまた自然の甘味、贈物。

器に取ると、氷室から削り出した氷に蜜をかけたよう。シャクっとした食感も面白い。

そういえば、蜂の巣は六角形の繋がり。

ご存知の通り五角形や六角形は魔除けの形。

先日の祓の茶会で使われた祓の形「鱗」は三角形。 

 

 

水無月、祓の月に、調べたいことが増えました。 

 



2020年5月30日

 【落とし文】

間も無く水無月という頃に和菓子屋さんに並ぶ「落とし文」。

見かけるとつい買ってしまうお菓子です。

面白い形ですよね。

 

「落とし文」は公にできないことを文に書いて、伝えたい人の近くに置いて拾わせた習慣。

それとオトシブミという虫が落とす葉の形が巻物のように見えることに由来するお菓子。

 

毎年この時期になるとお教室で

蛍にちなんだお干菓子とお出ししていました。

 

蛍は恋心に例えらることが多いので、

先程の落とし文は恋文かもしれませんね。と添えて。

 

「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ 鳴く虫よりもあはれなりけれ」源重之

 

今朝は自分のお稽古にと、肩衝、天目で濃茶を練りました。



2020年5月22日

 

【感謝】

「Thank you」の言葉と共に

少しだけ遅れて届いたカーネーション。

 

「ありがとう」

感謝の言葉は、いつ伝えても

誰に伝えても良いもの。

そして口にした人も

笑顔になれるもの。

 

お茶を習うと

「感謝」と「浄める」という言葉をよく使う。

 

日常でも、このふたつを意識すると、

穏やかにに過ごせる気がする。



2020年5月14日

【夏の朝】

鳥のさえずり。

明るい光。

立夏から小満に向かう頃。

万物を育む気は天地に満ちて。



2020年5月5日

【端午の節句・立夏】

お節句なので朝抹茶も少し改まり濃茶を練りました。

馥郁たる香り。

常緑の樹々を思わせる艶やかなお茶の色。

引き篭もっていますが、出来る範囲でお祝いを。



2020年5月3日

【喫茶去】

目覚めても起きずに微睡んでいると伝わる雨の気配。

 

新緑を輝かせる雨、翠雨。

瞼に浮かぶ外の緑の美しさ。

急に力を増した陽射しも今朝はひと休み。

 

のんびりと起きた休日のおめざ。

今朝はお点前はせずに喫茶去、さらさらと。

時に緩めて、時に締めて。

途切れさせないための秘訣。

 

お菓子は、少し素朴なものが頂きたくて「くるみ大福」を。週に一度の食材宅配の時にお願いしておいたもの。

餡にもお餅にもくるみが入っていて滋味豊か。

 

さて、今日は何をしましょうか。

ここ数年は、忙しなく走ってきたので、時間があるのは何より贅沢に思えます。

 



2020年4月30日

【ふるさと】

時々、心に染みる言葉に出会う。

音の響きに懐かしさのある言葉に出会う。

そんな言葉は、大和言葉のことが多いように思います。

日本の言葉は、大きく分けて三つ。漢語、外来語、大和言葉。

 

「開始」は漢語。

「スタート」は外来語。

「はじめる」は大和言葉。

 

大和言葉は、日本古来の言葉。

声に出すと、その音は、まるく、どこか懐かしい、と私は思うのです。

「うさぎおいし かのやま…」で始まる唱歌「ふるさと」が大和言葉で綴られた歌というのは、ご存知の方も多いでしょう。

 

なかなか、ふるさとに戻れない状況ですが、ゆっくりとその歌詞を味わいたいと思います。

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「ふるさと」

兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川

夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷

 

如何にいます父母 恙なしや友がき

雨に風につけても 思いいずる故郷 

 

こころざしをはたして いつの日にか帰らん

山はあおき故郷 水は清き故郷 

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朝抹茶のお供は、越乃雪本舗さんの「あまいおはじき」。

本物そっくりの有平糖のおはじき。

思い出すのは、幼い指で弾いたおはじき。

笑い声。

子供の頃の、お篭り遊び。